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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)238号 判決 1948年3月16日

主文

本件上告はこれを棄却する

理由

辯護人水田謙一同齋藤喜一上告趣意書第一點は『原判決は證據に依らず有罪の判決を爲した違法が有ると思ひます夫れは原判決事実中の「被告人に對する司法警察官の聽取書中の判示(一)の衣類は大城が早々處置せねばいけんと云ふたが近頃衣類の盗難が各地であり殊に賣りに來たのが朝鮮人であるから大城等が盗んで賣りに來たものでないかと思った旨の供述記載」の證據に依っては被告が本件物品が賍品であるとの情を知った事実は全々認められません只大城が物品の處分を急いだとか朝鮮人だから或は物品が賍物であることが分ると云ふらしいが一般にそう考へなければならない事も無いし又各地で盗難があっても其れ故に本件物件が賍物であると考へなければならない理由もありません犯人に盗品だと告げられたとか賣りに來たものが賍品であると云ふことを告げたとでも云ふことがあれば格別只前掲げた證據だけでは原判決理由(一)記載の品物が賍品なることの情を知ったものと認めることは出來ないと思ひます原判決理由(二)記載の事実に付いて原審公判廷に於ける調書に依ると問此の時は怪しい品と知って買ったと云ふ事だが何處で盗んだ品物と云ふて居ったか答其處迄は知らなんだのです前申ました樣に同じ紋付が四五枚もありましたからおかしいと思った丈けですと陳述したことは明かですが此の時も犯人から盗品であることを告げられたとか賣りに來たものに盗品であることを聞いたとか云ふのであれば格別右供述だけでは本件物件が賍品であることを知って買ったと認めるには無理で證據は無いと思ひます右公判調書の外に本件物件が賍品たることを知ったと云ふ事を認める證據はありません」というのである。

しかし賍物故買罪は賍物であることを知りながらこれを買受けることによって成立するものであるがその故意が成立する爲めには必ずしも買受くべき物が賍物であることを確定的に知って居ることを必要としない或は賍物であるかも知れないと思いながらしかも敢てこれを買受ける意思(いわゆる未必の故意)があれば足りるものと解すべきである故にたとえ買受人が賣渡人から賍物であることを明に告げられた事実が無くても苟くも買受物品の性質、数量、賣渡人の屬性、態度等諸般の事情から「或は賍物ではないか」との疑を持ちながらこれを買受けた事実が認められれば賍物故買罪が成立するものと見て差支ない(大審院昭和二年(れ)第一〇〇七號昭和二年十一月十五日言渡判決参照)本件に於て原審の引用した被告人に對する司法警察官の聽取書によれば被告人は判示(一)の事実に付き「(1)衣類は大城が早く處置せねばいけんといったが(2)近頃衣類の盗難が各地であり殊に(3)賣りに來たのが朝鮮人であるから大城等が盗んで賣りに來たのではなからうかと思った」旨自供したことがわかる右(1)乃至(3)の事実は充分人をして「賍物ではないか」との推量をなさしむるに足る事情であるから被告人がこれ等の事情によって「盗んで來たものではなかろうかと思った」旨供述して居る以上此供述により前記未必の故意を認定するのは相當である判示(二)の事実に付ては原審公判廷に於て被告人が原判示と同趣旨の供述をしたことが原審公判調書によってわかる從って原審が證據無くして知情の事実を認定したものとはいえないので論旨は理由がない。

同第二點は「原判決は被告の自白のみに依って有罪の判決をした違法が有ると思います右證據に依って原審の樣に本件の物品が賍品たることを知って買ったと認められるにしても日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十條第三項に何人も自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は有罪とされ又は刑罰を科せられないとあるから判決を以って有罪と判斷し刑罰を科するには自白以外の證據がなければならないのに拘らず右提示の證據は孰れも被告人の控訴審に於ける供述及司法警察官に對する被告本人の自白で其れ以外に知情の點の立證なきに拘らず有罪の判決を爲したのは右法條の存在を看過した違法の判決で而も右違法は判決に影響を及ぼすこと明白なれば原判決は取消され更に相當の御判斷あるべきものと存じますので茲に上告を申立た次第です」というのである。

しかし犯罪構成要件たる事実の大部分が他の證據の裏付によって認め得られる以上其一部に付ては被告人の自白以外他に證據が無くても所論法條に違反するものでないこと既に當裁判所の判例とする處で(昭和二十二年十二月十六日言渡昭和二十二年(れ)第一三六號事件判決參照)今なお變更の要を認めない從って知情の事実の如き賍物故買罪成立要件の一小部分に付き被告人の自白以外他に證據が無い旨を主張して原判決を攻撃する論旨は上告の理由とならない。

仍て刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ主文の如く判決する。

以上は當小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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